筑波大学附属病院総合診療科クリニカルクラークシップ/医療概論Vの振り返りの紹介
筑波大学では5年次~6年次を対象に1か月間の総合診療科クリニカルクラークシップ/医療概論Vを組み合わせた実習をしています。
この実習では1か月間のうち3週間は、先日ご紹介した水戸地域医療実習水戸地域医療実習(5年次)レポート(筑波大学) | ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業のように、茨城県内の地域で1~2週間ずつ2~3か所の滞在型実習を行い、残りの1週間は筑波大学附属病院で総合診療科の実習を行います(筑波大学附属病院総合診療科実習の紹介 | ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業)。
この1か月間の実習の初日と最終日には全員が集まってオリエンテーションと振り返りをしています。オリエンテーションでは、前野教授による総合診療についてのレクチャー、SDH(健康の社会的決定要因)についてのレクチャーやグループワークがあります。1か月の実習中の課題として、医療人類学、文化人類学の先生による「地域をみる」「人をみる」というオンデマンド講義を視聴した上で、実習中で出会った患者さんについて情報収集し、どのようなSDHがその人の現在の状態に影響しているかを考察するというものがあります。最終日の総括で、指導医がファシリテーターとなり、自分の経験した症例とSDHに関する考察を班の中で発表しています。
また、その後にSignificant Event Illustration(SEI)という時間も設けています。この時間では、1か月の実習中で最も印象に残ったことを、丸い段ボールの上に各個人が絵を描き、発表するというものです。指導医の顔、地域の風景、患者さんの様子、地域で暮らす人々、学生がコミュニケーションをとっている場面等、学生が表現する絵や語りは本当に様々です。このような取り組みをすることで学んだことの言語化、意識化につながっているように思います。
以下、学生アンケートから抜粋した感想を紹介します。
<医療人類学の先生によるオンデマンド動画について、実習中に活かしたこと>
・人はそれぞれの文化的背景を持っている(自分の所属する文化の色眼鏡をかけて、世界をみている)という点が印象に残っている。これは医療に限らず、日常生活を送っていく上でも忘れてはいけない視点だと感じた。
・自分の仮説や相手が属する集団・カテゴリーは患者さんを知る手がかりとして重要である一方、先入観に捉われて誤解してしまってはいけないので、自分の先入観に意識的になる必要がある。また、統計データと地元の人の語りと自分で観察したこと、それぞれが重要な情報であり、1つの情報に捉われて盲信するのではなく、それぞれをつなぎ合わせて考え、柔軟に考えをアップデートしていくことが重要だと分かった。
・相手を知るためには手掛かりを見つけることが大切で、その人の住所、出身だけでなく、仕草や服装なども手がかりになることを知って、予診を取る際にも仕草や身なりなどにも注目することができた。
・ミクロな視点だけでな く、マクロな視点でも見 れるように努めた。また、勝手に決めつけをするのではなく、この人がなぜこのような状況なのか色々選択肢を持って考えるようにした。
・実習が始まる前にこうした動画を視聴することで、全人的な医療のために、意識して見ることや、必要な考え方を学ぶ ことができ、スムーズに実習に臨むことができた。
<SDHの課題や発表会について>
・課題があることで、「この患者さんの健康にどのような要素が寄与しているのか」という視点で実習に参加できた。それぞれの体験を聞くことで、茨城県全体の地域医療における類似した問題点や自分が体験することのなかった経験を認識するきっかけになった。
・他の学生の発表から、自分が行ったSDHへのアプローチを見直すことができ、改善点を見つけることができた。
・班員それぞれが大きく異なる背景の患者さんについて発表していて、自分の想像しないような情報や観点でまとめていたため視野が広がった。
・SDHワークでは、患者さんの背景や現状・今後の問題をしっかり考える場となり、普段は聞かないことまで踏み込み、一人の患者さんを全人的にみる訓練になった。
・健康格差に関して今までの実習で何とな く感じていたがしっかり理解できていな かったので、体系的に学習ができてよかった。


<SEIについて>
・それぞれの経験について共有された点が非常に良かった。特に自分自身は在宅での看取りの場の経験がなかったので、その点の話を聞 けたことは良い経験だった。
・絵を見ながら話しを聞いたので、いろんな人の多様な経験がとても分かりやすく伝わ り、有意義だった。


<1か月間の実習全体を通して>
・総合病院における総合診療科の役割から、地域医療における総合医の役割につ いて現場で学ぶことが出来たのは非常に良い経験だった。
・1つの地域だけではなく複数の地域を回ることで各々の地域性について学ぶことができて面白かった。また、ある地域での課題を他の地域ではどのように克服しているのかを比較することで学びが深 まった。
・4週間の総合診療科実習がこれまで臨床実習をやってきて1 番成長につながったと思う。地域臨床への理解や介護職、薬剤師の現場への理解など非常に視野が広がる実習だった。