サイトビジットレポート⑨(亀田ファミリークリニック館山)
9 月 12 日(木)筑波大学医学医療系 小曽根 早知子先生が千葉県にある亀田ファミリークリニック館山に視察に行かれました。
1.視察目的
亀田ファミリークリニック館山は、全国に先駆けて2000年より家庭医養成プログラムを提供し、多くの修了生を輩出してきた全国有数の施設である。その診療領域は非常に幅広く、一般的な内科・小児・予防接種、在宅医療に留まらず、ウィメンズヘルス・マタニティケア、思春期・発達障害の診療、リハビリテーション、透析などに及ぶ。今回は、同院での取り組みを自施設での教育・研修に応用することを目的に視察を行った。
2.視察施設名
亀田ファミリークリニック館山(千葉県館山市正木4304-9)
3.視察内容
・ウィメンズヘルス・マタニティケア
同院では、総合診療医として診療領域の広さにこだわる姿勢の一つとして、妊婦健診を含めたウィメンズヘルス・マタニティケアの診療・教育を行っている。広いクリニックは待合室を含めた外来スペースが大きく3つに分かれているが、急性期(青)、慢性期(緑)と並んで婦人科系(ピンク)がその一角にある。産婦人科外来は週2回、総合診療医と専攻医(週1回は産婦人科専門医のスーパーバイズ下)が担当し、子宮がん検診、妊婦健診のほか、IUD挿入とチェックなども行っている。がん検診以外は1枠30分の時間を確保している。専攻医は病院での産婦人科研修、近隣の産院での研修を行うほか、クリニックでも指導医のスーパーバイズの元で定期的に産婦人科外来を担当している。
産婦人科領域に限らないが、クリニックと亀田総合病院との間でTeamsを用いた活発な情報共有を行える体制があり、診療上での相談や情報共有はTeamsのチャットで行うことができる。このほか、共有のカルテシステム、遠隔で確認できるNST(ノンストレステスト)の情報共有のほか、看護師長が定期的に病院とクリニックを行き来することなどによる人的交流などもあり、病院との密な連携により、クリニックで地域に求められる幅広くかつ質の高い医療を提供できる体制を構築していた。ウィメンズヘルス・マタニティケアで総合診療医が担える部分は積極的に担うために、研修体制と診療体制を多面的に充実させてきたことが窺えた。
・専攻医の様子と研修環境
総合診療・家庭医療の専門研修は4年間の研修期間で、亀田ファミリークリニック館山、亀田総合病院、安房地域医療センターなどの施設にて行う。指導医・専攻医の各学年は屋根瓦式にいくつかのチームに分かれていることが、クリニック内の壁に掲示されていた。朝会、昼勉強会、ポートフォリオ発表会や外来診療を行う様子から、各自がのびのびと診療・研修していることが見て取れた。院内にはLGBTQフレンドリーな施設であることの掲示のほか、複数の丁寧な取り組みが行われていた。これらの活動は、専攻医はじめ多職種職員が職種横断的な委員会を編成して進められており、月1回半日、診療を止めて委員会活動を行う時間を設けているとのことだった。岡田院長からのお話から、専攻医だけでなく各職員が、それぞれに興味を持ち必要だと思った活動を行える環境が作られていることが窺えた。
ポートフォリオ発表会では、オンライン上で一人が事例発表を行ったのち、参加する専攻医・指導医などとの質疑応答が行われた。どの専攻医もそれぞれの視点から意見を述べ、非常に活発な議論となっていた。
・院長、プログラムディレクターの視点から
岡田院長からは院内案内・面談を通して、クリニックおよび研修プログラム構築の背景にある家庭医療の診療・教育施設としてあるためのぶれない意図を強く感じた。その一方で、前述の通りそれぞれがのびのびと自由に興味・関心を探求することができる環境を整えていることが伝わってきた。
プログラムディレクターの岩間先生からは、院内での「あらゆるセクシャリティの人が受診しやすい診療所プロジェクト」の実践や、館山市のパートナーシップ制度導入のための活動についてご紹介いただいたほか、研修プログラム運営に伴うキャリア支援の取組みなどについて教えていただいた。採用から研修中(さらには研修後?)にかけて、中長期的かつ多面的な視点で各専攻医の育成を捉え、クリニックと関連施設に集約化された研修環境のメリットを活かしながら研修プログラムを構築していることが窺えた。
4.感想
今回の視察を通して、亀田ファミリークリニック館山は総合診療医の診療・育成施設として明確な意図を持ちながら、様々な工夫を経て現在に至ることを感じた。提供する医療の幅広さ、豊富な人的リソース、自由でのびのびとした環境から、学生・研修医・専攻医など誰にとっても、それぞれの段階に合わせて学ぶことができる場になっていると思われた。岡田院長が総合診療医を理解するためには「本物を一度でも見たことがあるか」が重要だと話されたが、私自身にとっては、家庭医がウィメンズヘルス・マタニティケアを実践・研修する現場を見られたことは、今後、自施設の研修改善や、家庭医の診療の幅広さの理解を卒前・卒後教育に還元するにあたり、非常に大きな一歩となった。