文部科学省補助事業 ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業

筑波大学・東京医科歯科大学

文部科学省補助事業 ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業

筑波大学・東京医科歯科大学

サイトビジットレポート⑥(ほーむけあクリニック)

筑波大学医学医療系地域総合診療医学 小曽根 早知子先生が広島のほーむけあクリニックに視察に行かれました。

1.視察目的

近年の医学教育においては健康の社会的決定要因(SDH)の視点から患者や地域をとらえることが求められているが、具体的なアプローチを行っている医療機関に学生が関わる機会は未だ限られる。ほーむけあクリニックは開設当初から患者・地域のSDHへのアプローチに注目して活動してきた医療機関である。同院の視察を通して、実際にSDHに取り組む視点で医療を提供する現場についての知見を深め、選択CC実習の受け入れの可能性を検討した。

2.視察施設名

医療法人ほーむけあ ほーむけあクリニック(〒730-0048 広島県広島市中区竹屋町8−8)

3.視察内容

1)ほーむけあクリニックについて

ほーむけあクリニックは、2017年に広島市中区に開業したクリニックである。外来(内科・小児科・皮膚科)、訪問診療(約250人)のほか、12床の入院病床をもつ。院長の横林賢一先生をはじめとする4人の医師でグループ診療を行っている。クリニックの敷地内にJaroカフェというコミュニティスペースを併設している。

院長の横林賢一先生は北部東京家庭医療学センター(CFMD)で家庭医療の研修を行った後、SDHに関心を持ちハーバード大学公衆衛生大学院に留学し、SDH、行動経済学などについて学ばれた経歴を持つ。クリニックの理念として「近隣にお住まいの方が、住み慣れた家で笑顔で過ごせるよう、健康面からサポート」を掲げている。後述のJaroカフェをクリニックに併設し、「様々な背景を持つ10%の人がしたいことを大切にし、誰かや何かとつながることを通じていつの間にか笑顔、いつの間にか健康になってもらいたい」との思いから、Jaroカフェの活動に留まらず、社会的処方、願いのオーダーメイドなどに活動の視野を広げている。

外来で特徴的なのは、診察室がそれぞれ個室で6部屋あり、診察室で患者・家族が待ち、医師・看護師が部屋を回るという米国式のスタイルである。基本的には、医師の診察の前に看護師が予診を取るという。外来スペースは全体に開放的で広い作りになっている。入院病棟は基本的には在宅患者のバックベッドとしての位置づけが大きい。レスパイト目的の入院のほか、急性期病院から在宅へのワンクッションを置く入院、外来からの急性期疾患、終末期の入院管理などを行い、慢性期病床としては使用していない。250名もの在宅患者を抱えるが、夜間の在宅患者に関する訪問看護からの問い合わせなどには、まず病棟の夜勤看護師が対応し、必要に応じて医師に連絡を取る形式だという。このように外来、病棟、在宅を持つことで患者・家族の幅広いニーズに対応することができている。

さらには地域の生活者への関わりの必要性から、一般社団法人Jaroカフェを併設している。Jaroカフェではまちの保健室、ベビーマッサージ教室(ランチ付き)、にこにこ離乳食教室、赤ちゃんのための食物アレルギー教室、認知症予防もできるつながるカフェJaro、お子さんに関するお悩みなんでもおしゃべり会、Jaroカフェ子育て教育講座、絵本で子育てひろば、Jaroこども食堂など様々なイベントを開催している。この場所はクリニックの患者・家族に限らず誰でも入れる形になっている。カフェには専属のリンクワーカーがおり、各イベントの企画、広報などに力を入れるほか、利用者に応じた情報提供や必要なサービスへのつなぎ役も担っている。

2)今回の視察内容

午前のオリエンテーション、施設案内などは主に総務の方と看護部長が進めてくださった。資料一式(名札、その日のスケジュール、オリエンテーション動画のスライド資料、院長のインタビュー記事、書籍など)をいただき、オリエンテーション動画にてクリニックの理念、活動内容、今後の構想などについて学んだ上で、看護部長の方が院内を案内ししながら色々な話をしてくださった。見学者へのおもてなしが素晴らしかった。コロナの5類移行に伴い多くの見学者、実習学生(医学生、看護学生など)を受け入れているが、そのスケジュール概要はこのお二人が調整されているという。医学生の実習の場合は、外来、病棟、在宅など幅広いセッティングで可能な限り参加型で実習を行い、最終日に院長との振り返りの機会を設定している。これまでは基本的には広島大学の学生を1人当たり2~3日で受け入れてきたという。

クリニックの外観、1F入口から2Fの外来・Jaroカフェスペースまでは、地域の人にとって適切な医療情報を提供し、気軽に2FのJaroカフェまで立ち入りやすいような工夫が随所になされていた。1Fから2Fへ上がる階段には側面の壁にパステル調のイラスト(赤ちゃんの誕生から成長、進学、成長していく過程)が続いているが、これはイラストを順にみていくことで自然と階段を登れるように、という行動経済学的な意図があるという。このほか、診察室、病棟とも、利用する患者・家族にとっての居心地の良さに最大限考慮した配慮が随所に見られた。

職員間の情報共有にはSlackを用いていて、院内端末およびタブレット端末から確認することができる。これにより、外来・病棟・在宅での医師への確認をはじめとした情報共有は格段にスムーズになったという。調剤薬局ともSlackを用いて疑義照会などを行うため、医師は外来中に内容を確認し承認作業などを行える。Slackの活用は診療関連に留まらず、朝礼、院長からの情報提供、院内の様々な委員会の情報共有などにも広く活用されていた。

Jaroカフェのリンクワーカーの方は医療専門職ではないが、広報関係の職歴もある方で、クリニックの随所にみられる掲示物の他、カフェのイベントのリーフレット・掲示物・SNSでの広報なども広く行っていた。カフェに出入りする方々とは顔見知りが多い様子で、診察帰りの方とあいさつを交わし、前日に訪問した人が再訪していたりした。コロナ禍を経てようやく子ども食堂なども再開し、今後はさらに地域へのアウトリーチ活動に力を入れてきたいとのことであった。

院長の横林先生からも色々なお話を伺った。特に印象的だったのは専門研修の頃の経験からSDHの重要性に気付き、留学などを経て米国式の診察スタイルを取り入れつつ、コミュニティスペースを併設して診療とSDHへのアプローチとを併設した独自のスタイルを確立されたことだった。加えて、在宅のバックベッドとしての入院病床も持つことで、患者・家族のニーズに対応できる幅を広げ、在宅ケアを提供する際のマネジメントのストレスを低減できているように感じられた。横林先生の患者・家族、地域の健康に貢献する姿勢が形になっていることが感じられた。

4.感想

今回は、院長の横林先生だけでなく、看護部長、総務の方、Jaroカフェのリンクワーカーの方などに多くの時間をいただきたくさんの話を伺うことができた。それを通して最も感じたことは、対応してくださった方それぞれが、院長の目指す方向性を明確に認識し、いかに患者・家族、および地域の方々の健康に貢献するかという点について、それぞれの立場・視点で活動し、その活動について語ってくださったことであった。それぞれの方の生き生きしている様子から、診療に留まらず多職種でSDHに取り組むことに対する希望と期待感を強く持つことができた。もし今後、選択CC学生が実習させていただける場合には、院長先生の家庭医としての姿勢、多職種の方々が生き生きと活動している姿を見ながら、SDHへのアプローチを身近に感じられる医療現場を経験できる貴重な機会となるだろうと感じた。

横林先生(右)、飯田淳子先生(左)とクリニック応接室で
通称「カープ部屋」と呼ばれる診察室の1つ

5.参考資料

・広島CLiP新聞

ほーむけあクリニック横林賢一さん「生活を診る」家庭医療で、温かな街づくりを