サイトビジットレポート④(宮崎大学)
文科省補助事業「ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業」の専任教員である筑波大学医学医療系 孫 瑜先生が宮崎大学を視察されました。
1.視察目的
ポストコロナGPに採択された宮崎大学の中高生を対象としたイベントに参加し、どのように地域の医師不足解消に努めているか参考にするとともに、宮崎大学の医学教育における取り組みについて情報を得ることで、本校の医学教育や茨城県の地域医療を担う医師の確保に役立てるため。
2.視察施設名
宮崎大学医学部(宮崎県宮崎市清武町) および 田野病院(宮崎県宮崎市田野町)
3.視察内容
宮崎大学は医師少数地域であることから、県と医師会と一体になって医師を確保するプロジェクトを進めている点が印象に残った。特に15日に中高生を対象に行われたイベント「宮崎から医師を目指そう!応援フォーラム」は今年で6回目を迎えるとのことであったが、今回も総勢200名以上の中高生(そのうち中学生が15%)とその保護者が参加していた。イベントは宮崎県臨床研修・専門研修運営協議会は宮崎県地域医療支援機構の共催であるが、登壇するのはすべて医師であり、先輩となる医学生や指導医からの熱いメッセージが伝わるものであった。第一部では医師の仕事や医学部教育の全体的な話があった上で、医学生(2年生、5年生)および研修医から進路選択、現在のライフスタイル、後輩へのメッセージがあり、最後に臨床→研究の道へと進んだ医師から多様な働き方ができるという紹介があった。第2部では地域枠やポストコロナGPのプロジェクトの説明、そして連携している東京慈恵医科大学からのビデオメッセージがあった。第3部はGoogle Formを用いた質疑応答であったが、質問が110件寄せられており、いかに参加者が興味をもって主体的にフォーラムに参加していたかを表していた。時間内ではすべて回答できなかったので、後日HPなどでの回答も検討しているとのことであった。今回のフォーラム以外にも5・6年生を対象に県と医師会と一緒にイベントを開催しているとのことであった。
16日は宮崎大学にて情報交換や各施設への見学を行った。連携校である東京慈恵医科大学と連携を密にしており、特にクリニカルクラークシップにて単位互換制度に基づく1か月単位の学生交換実習を令和3年度から開始し年々実績が増えているとのことであった。また、東京慈恵医科大学で大規模災害発生時のトリアージや心肺蘇生などに関するVRを用いたシミュレーション教育を開発している他、宮崎大学でもスマートグラスを活用した教育コンテンツの開発も進めているとのことであった。地域枠の学生に対しては地域枠卒業生医師が分室医師としてメンターになり、卒前から卒後まで継続してサポートをしていた。地域枠以外の学生に関しても小松教授が医学部の臨床医学教育部門教授と卒後臨床研修センター長を兼任することで卒前・卒後の一環した教育が実施されていた。
救急部の視察では山間部が多い宮崎県におけるドクターヘリを含めた救急医療のお話を伺い、実際にドクターヘリの内部や救急車(を半分に切断したもの)を用いた実習設備なども見学させていただいた。シミュレーションセンターでは広い複数の教室に多くのシミュレーション機器があり、病室を再現した部屋もあった。
午後の田野病院の見学では地域包括ケア実習の「むちゃぶり」や「えんたくん」などの実例を交えた話を伺うことができた。特に、主要な症候において、実際の症例での学生と指導医のやりとりも含めたシナリオを記録しておき、それをもとに学生に課題を出して(鑑別、文献検索、患者への説明の仕方など)解説する取り組みや、日々の学生の振り返り記録に指導医がコメントをする仕組みが印象に残った。
4.感想
県と医師会と一体になって事業を進めていること、また東京慈恵医科大学との連携も密にとり都市部と地域での異なる構造や特性、医療ニーズを互いに補完する形でポストコロナGPを進めていることが印象的であった。特に中高生を対象としたフォーラムは、保護者も対象としている点や、魅力を伝えるための全体の構成などとても参考になるものであった。小松教授と澤口教授が10年程度かけて改革してこられたことで現在の形があると伺うことができ、筑波大学においても今後各部署との連携を強めていく必要性を感じた。また、吉村教授との意見交換では、シナリオを用いた課題で疑似体験することにより、実習しているタイミングの症例のばらつきに関係なく主要な兆候について学ぶことができる点も参考になった。日々の振り返りのコメントも含めて、吉村教授の学生教育への熱意を改めて感じた。