文部科学省補助事業 ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業

筑波大学・東京医科歯科大学

文部科学省補助事業 ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業

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サイトビジットレポート③(笠間市)

筑波大学医学医療系 矢澤 亜季先生が茨城県笠間市にある3つの施設の視察に行かれました。

1.視察目的

笠間市のこども育成支援センター、笠間市立病院、地域包括支援センター、茨城県立中央病院を訪問し、笠間市における医療の取り組みについて学ぶ。

2.視察施設名

笠間市こども育成支援センター(茨城県笠間市美原3−2−11)

笠間市立病院、地域包括支援センター(茨城県笠間市南友部1996-1)

茨城県立中央病院(茨城県笠間市鯉淵6528)

3.視察内容

1日目  

まず自分で市内を散策した。市内といっても、笠間、岩間、友部という三つの自治体の合併でできた大きな市であり、私が歩いたのは笠間にあたる。見たところ市街地から離れてもなかなか立派な瓦葺の2階建の家が多い。古い空き家などもほとんど見かけず、まだ街がそう寂れていない印象を受ける。山がちで、緩やかな勾配のある道が多い。笠間は栗の産地として有名で、柿やさつまいもも自分で育てている人が多い。このため秋になると糖尿病のコントロール不良になり病院に患者が増えるという話を聞いた。そもそも糖尿病が多い地域らしく、その理由を後述の地域包括支援センターの職員に伺ったところ、単に食べ過ぎなのだそうだ。平日10時の道の駅は、観光客というよりは地元の高齢者の買い物の場になっており、私の他には高齢夫婦が名物のモンブランを分け合ってお茶している様子が5組ほど見られた。

こども育成支援センターは想像以上に立派な施設であった。こどもが減っている笠間市ではあるが、就学時健康診断で‘気になる’幼児数は増加しており、全体の25~30%を占め、そのうち特別支援学級や特別なケアを実際に要する子だと8~10%となる。不登校児童数は平成29年度の107人から令和4年度には233人に増加している。こども育成支援センターの珍しい取り組みとして、保健、教育、福祉の人材と機能をセンターに集約させることで、0歳から18歳まで切れ目なく支援を提供することを目指している。現在センターで対応している子の数は512名。センターに来た人にサービスを提供するだけでなく、巡回相談と言って、家庭に伺って話を聞いたり、学校(保育園含む)に出向いて観察し、気になる子を見つければ声をかけるといったこともしている。センターには小集団指導、個別指導、調理室、身体機能の発達を診たり育てたりするための部屋、健診ができる部屋などさまざまな機能が備わっており、フリースクールとして不登校児が毎日でも通っていいスペースを設けている。私が見た時は小さい子から小学校高学年くらいまで10名弱居たが、居心地良さそうにそれぞれ工作に励んでいた。不登校の理由はさまざまだが、コロナ禍で学校に行けなかったことで不登校につながってしまった子もいるらしい。交通手段のない子には送迎まで行っているというのだから、本当に手厚い。

次に笠間市立病院と、併設されている地域包括支援センターに伺った。まず健康医療政策課の方の話を伺った。笠間で特に問題となっているのが、糖尿病、CKD、脳卒中の多さで、予防のための運動教室などに力を入れている。問題点として感じているのは、生活習慣病予防と介護予防が連携不足であることや、精神保健分野の年齢ごとの分断、歯科検診受診率の低さ(2%程度)、出生数の減少による横のつながりの作りにくさ、3歳になると急に虫歯罹患率が増えること(祖父母との同居が原因か?)などを挙げられていた。実は友部地区だけで見ると人口数は増加している。笠間市独自の取り組みとして、生活習慣病予防検診、健康講座(いもやお砂糖の取り過ぎに対する注意など)、笠間市ヘルスリーダーの会(食生活改善推進員の育成)などを行っていて、そうした際に参加するボランティアの高齢化も問題になっている。病院と併設しているメリットとして、プレコンセプションやメディカルカフェなどの予防的な事業が進めやすいという点、外国人対応が容易な点(察するに、医師の英語力に頼っている)、予防接種や健診がスムーズな点、医師・OT・PTなどと顔が見える関係ができている安心感がある点などを挙げられていた。

次に、高齢福祉課の方に話を伺った。笠間市の高齢化率は34%で、県平均(31.4%)より少し高い。地域包括ケアシステムの中で、高齢者支援、障害者支援、難病疾患支援、子ども支援、ひとり親・引きこもり等支援がそれぞれ業務をこなしており、単独で対応できないケースを“地域ケアコーディネーター”と呼ばれる3地区の社協(社会福祉協議会)に一人ずついる県の研修を受けた人材がプラン作成を請け負う。例えば、85歳以上の独居高齢者がリストに上がり、何の支援も入っていない場合は訪問を実施する。地域包括ケア会議では各ケースに対しマインドマップを用いた多職種間でグループ検討を行い、本人の状態や意思を尊重した形でサポート体制が組まれていく。現在市内には533の在宅ケアチームがあり、ボランティアの近隣見守り協力員等も含めた見守り体制が作られている。

訪問看護ステーションに移動し、まずケアマネージャーに話を伺った。ケアマネージャーとは、要介護認定が付いた人や、末期で家での見取りを希望する人のためにケアプランを作成するとともに、居宅サービス事業者等との連絡調整や、入所を必要とする場合の介護保険施設への紹介などを行う仕事であり、支える家族のサポートも含めて「孫・息子のように」何でもやるとおっしゃっていた。月に一度は必ず、必要な時は週2,3回訪問をする。要請に従って動くだけでなく、近くを通りかかった際などに突撃訪問もして、普段の生活や家の様子を見たりもする。10割健康保険から報酬が出るが、大体の利用者が1割負担のいわゆる低所得層であるため、利用可能なプランの提案が難しいそうだ。笠間市立病院には一人だが、医師等との連携をしながらプランを立てられることが強みだという。何よりも作成したプランに対して合意形成を逐一することが大切だそうだ。

次に訪問看護師にも話を伺った。常勤4人、パートタイム1人の4.8人体制。病院での診療には関わらず訪問看護のみを担当し、状態管理、薬の処方依頼、情報共有を業務とする。患者は医療保険が20%、介護保険が80%くらいの割合で、20代から80代まで幅広い。がん患者が多く、次いで生活習慣病、ALS・パーキンソン病などの難病患者となっている。性質上見取りが多いため、回転が早い。年間20~30件担当するが、5~6人亡くなってその分また追加されるという感じ。見取り希望でも老老介護や肺炎などで入院となり、最期は病院で迎える方も多い。月2回は症状が落ち着いていても訪問するようにしている。片道平均30分以内の距離が多く、1件に2時間程度かかり、1日に4件くらい回ることが多い。基本的には一人で行く。週7日24時間体制を5人で回しているため、夜勤もある。全員が女性で、平均50代で子育てが一息ついたがまだ体力があるような人ばかりである。このような大変な訪問看護をなぜやっているのか伺うと、思いがけず「楽しいから」という答えをいただいた。一人の患者さんに最期まで深く関わることができ、自分の能力を発揮できている実感を持てる点が病院の看護師とは異なるそうだ。

1日目の最後に認知症ケアのための勉強会に参加した。認知症疑いがあるが病院にきてくれなさそうな人などに対して多職種の支援者が一緒になって対策を考え、その後のフォローアップをしていくことが目的である。この日は13名が参加していた。今回は3人のフォローアップだった。「徘徊があったことを民生委員さんが伝えてくれ、ケアマネージャーが家族にサービスの追加を促しているが反応が鈍く、今後も働きかけ続ける。」、「施設入居が決定したが、病院に滞納のある人なので施設でお金の管理をし、少しずつ返済予定である。」、「徘徊して警察騒ぎになったが、奥さんは助けて欲しいと言ったりやっぱり大丈夫と言ったりしてなかなか支援につながらない。どちらも親族がいないのが気がかりだが、近所付き合いはある。」など、かなり社会的背景に踏み込んだ事情まで全員で共有していた。こんなにも手厚い支援体制があるとは驚いた。

2日目

1日目に終えることができなかった病院案内を受けた。まず、放射線部門。CTまであるが、心臓が撮れるものではないということだった。必要な場合はすぐ近くの県立中央病院か、水戸まで送ることになる。それ以下の一般的なレントゲン等は一通り揃っているが、読影できる医師が居ないのでセコムの遠隔サービスを利用し、2日ほどで結果が返ってくるシステムである。

調理部門では、管理栄養士の説明を受けた。NST(Nutrition Support Team)は、入院患者のニーズに合わせて個別の食事を提案する。平均して30床のうち、20~25床がご飯を食べ、残りの5人は胃瘻である。食べられない理由(うつ症状、嚥下能力、好き嫌いなど)を個別に考え、医師、PT、看護師を含むチームでレシピや調理方法を工夫する。栄養補助飲料にも様々なフレーバーが用意されている。調理自体は外注している。

また、病院内には病児保育室がある。これは市(福祉分野)からの委託業務で、3人見ることができる。看護師1人、保育士2人が常駐しており、笠間市民だけでなく笠間で働く人誰でも利用可能ということだった。ヘパフィルターのついた各個室では39度の熱まで預かりOKで、コロナ以外、すなわち麻疹、風疹、インフルエンザでも預かっている。

診察室は2部屋常にあるが、臨機応変で他の部屋も使用している。今日は4部屋使っていた。総合診療医6名で基本的には診療しているが、通いで皮膚科医、整形外科医が診療に来てくれる日は混むそうだ。内視鏡(胃、大腸)は院長しかできないので、予約が何ヶ月も埋まっている。エコーや心電図など、一通りの診察や健診ができる用意がある。

2階は病棟になっている。まず立派なリハビリステーションがある。利用者はそう多くないが、病院の規模を維持するのに作る必要があるらしい。今は2:8位の割合で普通病棟と包括病棟がある。この割合の調整が悩みどころだそうだ。数日から、長い方では120日くらい入院している。医療機器は基本的なものが揃っており、人工呼吸器などもあるがほとんど出番はない。16人の常勤看護師と、7人の臨時看護師で対応している。コロナ禍では2021年にクラスターが発生し、看護師が4人しか出勤できないという事態が発生したことから、現在でもかなりコロナに関しては制限を厳しく設けている。例えば面会は予約制で、家族が大部屋に入ることはできない。

次に訪問診療に同行した。今日は3名。1人目の97歳の女性は、ここ数年転倒や関節炎、胆嚢炎などで入退院を繰り返しており、高齢のため手術はせずに施設に入所して様子を見ているところであったが、頭はしっかりしており、食事も摂れている。独居だが、隣に娘家族が住んでいる上次女が介護士なので、サポート体制が整っている。医師に会えて嬉しいとか、みんなが優しくて涙が出ると元気そうに話していた。3人目の96歳の女性も頭がしっかりしており、高齢のため色々な症状はあるが、元気そうである。立派な古い日本家屋で娘家族と同居していた。孫娘が対応してくれ、訪問看護との連絡帳や症状や必要な薬についてまとめたノートを見ながらしっかりと情報を伝えてくれた。それらに対して、2人目の77歳の女性はレビー小体型認知症であった。寝たきりで体は硬直し、話もできない状態で、元PTの夫が一人で看護している。元は看護師長まで勤め上げたキャリアウーマンだったというから、なんとも悲しい気持ちになる。子育ても夫がかなりよくやったようで、立派な家は綺麗に整頓されており夫が家事上手なことが伺える。2人の子供たちは東京に住んでいる。胃瘻が入っているので、この生活が何年も続く可能性もあるという。まだまだ元気そうな夫ではあるが、彼の今後を案じてしまった。

午後は、県立中央病院へ行った。笠間市立病院から10分ほどの距離にあるこの県立中央病院は、300床あり規模が格段に大きい。例えば手術が必要な人を笠間市立病院から送ったり、逆に緩和ケアに移行したい人や介護環境がなく退院が難しい人を笠間市立病院に送ったり、訪問看護を入れるときの情報共有をするなど密な協力体制がある。毎週笠間市立病院から医師と看護師が出向き、話を聞いておいて欲しい患者リストをもらう。今日は1人のみで、70歳の大腿骨骨折の患者さんだった。まだ若く他に疾病もないのだが、姉と二人暮らしのため介助は難しく、退院の前にリハビリの必要があるので笠間市立病院への転院要請が出ていた。

4.感想

まず一番驚いたのは、笠間市立病院には総合診療医しかいないということである。規模が大きい病院ではないが、それでも入院もでき救急も受け入れている病院で、24時間体制で稼働しているこの病院がたった6名の総合診療医で回されているというのは驚きだった。訪問診療や病院経営など、「自分がいないと困る人がいる」と医師に思わせる要因があるのはあまりいいことではないだろう。やりがいとプレッシャーが拮抗する職場だと感じた。それでも大病院よりはだいぶ拘束時間は短く、働きやすいらしい。

次に、笠間だけではないのかもしれないが、笠間市立病院と県立中央病院をはじめ、あらゆる機関の連携が図られていること、また患者や市民に個別のプランを用意する工夫がなされていることに驚いた。誰もが可能な形で医療や福祉サービスにアクセスできるよう、様々な人が関わり合い情報をアップデートしながらプランが練られていく。一市民として非常にありがたく、また健康な自分は何も知らないのだなと痛感した。

道の駅かさま