文部科学省補助事業 ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業

筑波大学・東京医科歯科大学

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サイトビジットレポート②(北茨城市)

筑波大学医学医療系 矢澤 亜季先生が茨城県北茨城市に視察に行かれました。

1.視察目的

北茨城市民病院附属家庭医療センターでは、吉本尚先生を中心に減酒治療に精力的に取り組んでいる。今回、北茨城市保健センターで行われる依存症に関する講演会に参加し、北茨城市民病院附属家庭医療センターでの外来診療の様子を見学させていただいた後、北茨城市コミュニティケア総合センター「元気ステーション」にて北茨城減酒サポートグループの集会に参加した。

2.視察施設名

北茨城市保健センター(北茨城市華川町臼場187-27)

北茨城市民病院附属家庭医療センター(茨城県北茨城市中郷町上桜井844-5)

北茨城市コミュニティケア総合センター「元気ステーション」(茨城県北茨城市中郷町上桜井844-6)

3.視察内容

 まず、北茨城市保健センターにて、新田千枝先生の依存症に関する講演会に参加した。テーマは、「依存症ってどんな病気?〜予防と回復について〜アルコール依存を中心に」であった。こころの健康づくり講演会として、北茨城市健康づくり支援課が主催するものである。30名弱が集まっており、一般の方と関係職員が半々という感じで、後者の内訳は、消費生活センター(買い物依存・病的窃盗などに対応)、市役所、高齢福祉、訪問看護師などの関係者であった。演者の新田先生は臨床心理士・精神保健福祉士として活動されているが、依存症を専門とした動機として、アルコール依存はカウンセリングだけでは解決せず、心の支援、生活の支援を同時に行わねばならない難しさを知り、特に高齢の場合は認知機能低下を多くの場合併発しており、回復が見込めず拘束帯で縛られて過ごす患者を見てきたことで、解決策を探る必要があると感じたことを挙げていられた。日本にアルコール依存症の人は107万人いると推計されている。これは、喘息やアトピー性皮膚炎と同等の有病率であると知って驚いた。ちなみにギャンブル依存、ネット・ゲーム依存となるとその2倍、4倍に数が膨れ上がる。依存症は本人の努力で抜け出すのはほとんど不可能で、アルコール依存は悪化の一途を辿るという意味で死と隣り合わせであり、また、他の精神疾患との併発が多く、自殺も多い。恥ずかしい問題ではなく、誰かが助けなければならない事を当事者以外にも周知することが大切だと感じた。

午後は吉本医師の外来を見学した。さまざまな患者を診ていて流石は総合診療医だと思った。基本的にはいろんな話を笑いながら聞いていくスタイルで、「大きい病院では患者さんのことを話すときに病名で話すけど、ここでは患者さんの性格とかの話が先に出てくるんですよ。」という言葉が印象的だった。6名の診察を見せていただいた。慢性疾患を複数抱える人が3名で、一人は約25種類薬もの薬を処方されているポリファーマシーの方だった。3名とも頓服があったり自分で飲む量を調整したりされていた。残薬の管理は患者に頼っているが、高齢になる程難しくなってくるはずだ。残薬管理アプリ等はすでにあるが、高齢者が簡単に使いこなすのは難しいだろう。他3名は、精神疾患及びアルコール依存症の方だった。母、息子で精神疾患を抱えている方と、40代の女性のアルコール依存症であった。後者の診察は、私がいると話しにくいとの事で退出したが、吉本先生は精神疾患であってもいろんな話を笑いながら聞いていくスタイルを崩さず、友達に話すかのように日常のこと、ライフイベント、家族のことなどを自然と患者さん側から話しているのを見て、総合診療におけるSDHの聞き取り方を見せていただいたような気がした。

最後に減酒サポートグループでの活動に参加した。依存症を抱える参加者は2名、若い男性と、中年の男性であった。二人ともアルコホーリクス・アノニマス(AA)の活動に積極的に参加しており、若い男性は運営にも携わっている。中年の男性は他の集いにも毎日のようにオンラインで参加している。「仲間がいることが楽しかった。人の話を聞いていると人間味を感じることができ、刺激になった。(中年男性)」「自分が病気であると段々自覚していった。AAの人と関わりを持ち続けるしかやめる道はないと最近感じている。(若い男性)」「減らして良かったと思う時は、“生きていること”に気づく時。(若い男性)」「仲間と呼べる人をAA以外に見つけるのは難しい。仕事を見つけたいが、依存症だと打ち明けるとすぐに態度が変わり、雇ってもらえない。人種差別されているように感じる。(中年男性)」などの言葉が印象的だった

4.感想

アルコール依存症は、一度なってしまえば自分でその身体的な依存(飲まないと手が震えたり、調子が悪くなる状態)から抜け出すのは極めて困難で、入院によって解毒してからでないと心理的な治療などがそもそも始められない。覚醒剤などと違い、誰にでも簡単に手に入り、コミュニケーションツールとして当たり前に嗜好されているアルコールだが、依存症になってしまえば死と隣り合わせだということを知って驚いた。人生誰しも一度や二度は本当に辛い時があるだろう。そうした時にお酒がそばにあるだけで、死に向かうことになるかもしれないのだということを、しっかりと周知すべきだと感じた。お会いした依存症患者のお二人とも、とても理性的で、人間味のある方だった。彼らの力ではどうしようもない逆境に置かれ、このようになってしまったのだと感じた。当たり前のように、自分にも起きうる問題だと誰もが理解する世の中になり、救いの手が差し伸べられるようになってほしいと願う。